研究活動

常設研究会 ― 生協共済研究会(第18期) 第2回報告 ―

○ 開催日時
2023年9月1日(金)15:00~17:30
○ 開催会場
プラザエフ5階 会議室(オンライン併用)
○ 参 加 者
41名 (委員13名、オブザーバー17名、事務局・講師11名)

テーマ

  1. 研究報告「協同組合のアイデンティティと協同組織金融」
     報告者:小関隆志氏(明治大学 経営学部 教授)
  2. 研究報告「協同組織金融の現状と課題~信用金庫を中心に~」
     報告者:谷川孝美氏(日本大学 商学部 講師)
  3. 団体報告「こくみん共済coop<全労済>2022年度決算概況について」
     報告者:佐々木祐介氏(こくみん共済coop 経営企画部 調査渉外室長)

概要

1.研究報告「協同組合のアイデンティティと協同組織金融」

 明治大学 経営学部教授の小関隆志氏より「協同組合のアイデンティティと協同組織金融」をテーマに、協同組織金融の分野でアイデンティティがどのように問題となっているのか、理念・価値を重視する金融の取組事例を紹介しながら協同組織金融のアイデンティティをどう見出すかについて報告いただいた。
 先ず「協同組合のアイデンティティの危機」として、ICAが1995年の協同組合諸原則に関するICA声明の再検討を呼びかけ、国内でも協同組合のアイデンティティが論点になっている中で「1980年当時と現代のアイデンティティ危機の様相の違い」に触れた。
 つぎに「協同組織金融におけるアイデンティティの危機」として、信用金庫・信用組合にとっての法的存立基盤の見直し論議が1960年代、80年代、2000年代と過去3回にわたって繰り広げられてきた経過が説明された。金融自由化や新自由主義的な圧力の中で民間銀行との差異をなくそうという動きであったが、中小企業に融資する「専門性」ゆえに協同組織金融としての存続が認められた。一方で「協同組織性や非営利性を維持すべきか、信金・信組にしかできないことは何か、地方銀行との違いは何かについて、根本的な議論はされず、先送りとなってきた」ため、現在に至るまでアイデンティティの問題が放置されてきている。さらに最近の状況として「リレーションシップバンキング(地域密着型金融)」と「事業性評価」に触れ、「リレーションシップバンキング、事業性評価を組織的・継続的に取り組んでいる信金・信組は少ない」と考察した。
 最後に「二つの『導きの糸』」として、2010年代後半以降の環境変化(リレーションシップバンキング、事業性評価、サステナブルファイナンス、グリーンボンド、ESG投資など)をふまえ、協同組織金融が独自のアイデンティティをどのように構築していくかに関する示唆として、「バリュー・ベース・バンキング(価値を大切にする金融)」「社会的連帯経済」の2つを挙げた。

2.研究報告「協同組織金融の現状と課題~信用金庫を中心に~」

 日本大学 商学部 講師の谷川孝美氏から信用金庫を中心に「協同組織金融の現状と課題」について報告いただいた。
 はじめに法的基盤や組織規模について都市銀行や地方銀行と比較しながら「信用金庫の特色」は「中小企業専門性(中小企業金融)」「協同組織性」「地域性(地域密着型金融)」にあると説明した。
 続いて営業対象である中小企業・小規模事業者の概況について、大企業と比較すると業況が厳しいことにふれたうえで、「日本型金融排除」について説明した。
 そのうえで協同組織らしい取り組みの事例として東榮信用金庫と巣鴨信用金庫を挙げた。東榮信金は「トコトンおせっかい付き創業支援」と名付けて創業支援に積極的な取り組みをしている。巣鴨信金は会員である中小企業のために「販路拡大サポート」や「ビジネスマッチング」等の事業支援の取り組みに積極的である。
 最後に信用金庫の課題として、「会員の高齢化」「職員数の減少」「協同組織としての教育問題」を挙げた。教育問題については、信用金庫の会員は協同組織の一員であるとの認識が薄く、その点において生協組合員との差があるとした。

3.団体報告「こくみん共済coop<全労済>2022年度決算概況について」

 こくみん共済coop 経営企画部 調査渉外室長の佐々木祐介氏からはこくみん共済co-opの2022年度決算の概況について報告いただいた。
 まずは2022年度の事業に関する取り組みとして、公式アプリのリリース、協力団体・共創パートナー団体とのパートナーシップ強化、団体生命共済の商品改定、社会課題の解決のために「7才の交通安全プロジェクト」や防災・減災等の地域に根ざした活動を進めていることを報告した。
 続いて損益・財務状況について、支払共済金は新型コロナウイルス感染症や台風による住宅の被害への支払いにより3,455億円と増加したため、経常剰余金609億円、当期剰余金248億円と例年より少なくなったが、支払余力比率2,241%と健全性を示す比率を高く保っている旨を報告した。
 最後に防災・減災の取り組みとして本部のある渋谷区で防災イベントを企画していることを紹介した。