刊行物情報

生活協同組合研究 2013年5月号 Vol.448

特集:労働者協同組合と協同運動

 数ある協同組合の中でも,労働者(生産者)協同組合は自らで出資し,管理を行い,利潤分配する試みであって,賃労働関係から労働者を具体的に解放しようとする「労働者の夢」といわれる。長い伝統と経験があり,しかし多くの困難や挫折もあった。

 本号では,その労働者協同組合をめぐる特集を企画した。

 まず,富沢賢治氏の基調論考では,働く者が出資し経営責任を担う組織であるワーカーズ協同組合は,いかにその運動を展開してきたのかを論じる。そしてその使命を,貧困と労働という二大テーマととらえる視点から扱うものである。

 原田晃樹氏は,日本のワーカーズコープの実態調査から,WISEとして持続可能な事業を展開するための条件を指摘している。

 竹信三恵子氏は,ワーカーズコープ,ワーカーズ・コレクティブでの働き方が,我が国の労働関係法で「労働者」とみなされない。この「雇われない」働き方は,いかなる困難を生じさせているのか,その問題を看過せず述べている。

 藤木千草氏は,阪神淡路大震災後に特定非営利活動法人法が制定され,法人形態という活動基盤を得たこと,そして東日本大震災で被災した地域では,ワーカーズ・コレクティブはどのような取り組みを行ったかを紹介している。

 永戸祐三氏は,非正規雇用労働者が3分の1を超える割合となっている労働社会において,労働の意味を問い直し,「協同労働」の実践を積み重ねてきたワーカーズコープの歴史と今後の課題を記している。

 加えて,鈴木岳と大津荘一研究員は,労協の先進国であるフランスとイタリアの状況をそれぞれ記すものである。

 当研究所としては久々の労協特集,ご意見などをお寄せ下さい。

(鈴木 岳)

主な執筆者:富沢賢治,原田晃樹,竹信三恵子,藤木千草,永戸祐三,鈴木 岳,大津荘一

目次

巻頭言
十年代または十年間について(都築忠七)
特集 労働者協同組合と協同運動
ワーカーズ協同組合運動の歴史的到達点(富沢賢治)
社会的企業による社会的包摂の条件──日本型WISEとしての労働者協同組合──(原田晃樹)
「雇われない」の意味,変質への懸念──ブラック化の罠にはまらないために──(竹信三恵子)
3.11以降のワーカーズ・コレクティブ運動──2つの大震災を転機として──(藤木千草)
ワーカーズコープ=協同労働の協同組合のめざすもの──歩んできた歴史とこれからの展望──(永戸祐三)
フランスの労働者協同組合の歴史と現況(鈴木 岳)
コラム イタリアの労働者協同組合(大津荘一)
研究と調査
「生活クラブいなげビレッジ虹と風」を訪ねて(藤井晴夫)
海外レポート
英国 The Co-operative Groupの最新の仮決算(藤井晴夫 訳)
本誌特集を読んで
(齋藤昭子,友田さゆり)
新刊紹介
高端正幸著『復興と日本財政の針路』,(山崎由希子)
神野直彦他著『よくわかる社会保障と税制改革』(山崎由希子)
十川信介著『島崎藤村』(林 薫平)
研究所日誌