刊行物

生活協同組合研究 2026年3月号 Vol.602

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東日本大震災から15年:過去の災害の経験から学ぶこと

 2011年3月11日に宮城県牡鹿半島沖で発生した地震とこの地震によって引き起こされた津波、東京電力福島第一原子力発電所事故から、この3月で15年を迎える。これらの地震と事故が人々の生活と日本社会にもたらした大きな影響についてはご記憶の方も多いと思うが、時間が経つにつれ、あの時起きたことや、被害に遭った人々がその後どのように暮らしたのかを考える機会は減っているように思う。

 残念なことだが東日本大震災以降も、地震に留まらず台風、大雨による洪水や土砂崩れといった自然災害が各地で続いており、AIや科学技術が発達しても自然災害とは無縁の社会を作ることは不可能と思われる。しかし、今後も起こりうる自然災害に対して人間にできることが全くない訳ではなく、その一つは過去に起きた大きな災害の経験から、より良い復興の方法を学ぶことではないだろうか。

 本号の特集では以上の問題意識に基づき、東日本大震災発災から15年の節目を機会として、災害のもたらした死者・行方不明者の数や経済的損失の額といった数字だけでは把握することのできない被害と、それらの被害に対してどのような支援や対応がなされ、そこから今後起こりうる災害被害についてどのような学びがあるのかを、実際に被災された方・支援された方たちの声を聞き、まとめた原稿を集めた。

 災害発生時に近隣住民が助け合えるためには、平常時から地域における人間的なつながりを作っておく必要があるが、都市部のみならず地方部でもそのようなつながりが弱まっていることが山論稿で指摘され、平常時からの高齢者の社会参加を促進する「哲学カフェ」や、祭りの復活を通じた「人間の復興」の取り組みが紹介されている。続く玄田論稿での震災前から行っている釜石市における調査を通じ、災害からの復興プロセスを支えたのは各個人が「持ち場を守る」意識であり、その前提として震災前からの信頼関係があったとの指摘は,山論稿で重要視されている平常時からのつながりとも一致している。

 災害が発生した後に、復興するということは、どのような状態になることを意味するのか、非常に難しい問いを殊更に示すのが原子力発電所事故である。糸長論稿では事故を経験した世代に留まらない、将来世代を見据えた復興の見取り図を示し、現世代が未来世代への責任を果たすことを説いている。同様に、原発事故の経験について特に被災地在住の女性たちにフォーカスした清水奈名子氏の論稿を読むと、人間の弱さを前提にケアを中心に据えた社会の構築を作ることが災害への備えにつながると理解される。さらにケアに関し、清水冬樹氏の論稿では東日本大震災後にあまり重視されることのなかった子どもや若者たちへの支援は「避難所運営や復興計画への参加」ではなく、彼らが自身の人生を取り戻す過程としてなされるべきと指摘されている。

 コラムでは大きな被害を受けた岩手県、宮城県、福島県の生協組織と共済事業を通じての災害対応について寄稿を頂いた。日頃から組織の理念的土台としてたすけあいを掲げる生協・共済組織は、災害の被害への対応が迅速でケアも行き届いていることが分かる。

 本号の特集を通じて、災害を経験した人の状況に思いを馳せ、それらの経験から今後も起こりうる災害からより良く生活を復興させるために重要なことについて改めて考える機会となれば幸いである。

(山崎 由希子)

主な執筆者:山 泰幸,玄田有史,糸長浩司,清水奈名子,清水冬樹,川村公美,河野雪子,佐藤一夫,こくみん共済coop

目次

巻頭言
オンライン空間の安全をどのように守るか──イギリスの新しい挑戦──(天野恵美子)
特集 東日本大震災から15年:過去の災害の経験から学ぶこと
超高齢社会の災害対応と人間の復興(山 泰幸)
釜石との20年のかかわり──希望,危機,そして小ネタ──(玄田有史)
原発事故による広大な放射能汚染地域の長期的な復興再生を問う(糸長浩司)
原発事故後の女性たちの経験に学ぶ──ケアを中心とした社会構想に関する考察──(清水奈名子)
災害を経験したこども・若者の声を聴く──応答関係が支える「自分の人生を取り戻す」過程──(清水冬樹)
コラム1 震災後の地域・くらしの変化,寄りそった生協の事業・活動(川村公美)
コラム2 宮城県における生協の復興の現状(河野雪子)
コラム3 未曽有の事態の経験の中で「協同とは何か」という問いに向き合い続けた日々を追って(佐藤一夫)
コラム4 大規模地震に対するこくみん共済coopの取り組みと今後に向けて(こくみん共済coop)
IYC2025の機会に協同組合の価値を再考する(第12回)
地域で顔の見えるつながりを広げる姫路医療生協の「生協マルシェ」(久保 茂・平井紗希,聞き手:山崎由希子)
国際協同組合運動史(第48回)
1980年第27回ICAモスクワ大会③──Dr. レイドロー報告へのコメントと返答・決議の採択──(鈴木 岳)
本誌特集を読んで(2026・1)
(多木誠一郎・浮網 佳苗)
新刊紹介
向井清史著『「新しい市民協働」を拓く──ハーバーマス,ロールズ,センの思想から考える』(鈴木 岳)
研究所日誌
公開研究会「生協総研賞・第22回助成事業論文報告会」(3/19)
『生協総研レポート』「社会的連帯経済研究会(3)」を刊行しました